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AIに依頼するだけで、AIがシステムのコードを書き上げてくれる時代になりました。
ChatGPT や Gemini、Claude Code といったAIのツールが急速に普及し、システム開発の速度は劇的に上がっています。これにより、かつて数ヶ月かかっていた機能が、数週間で動くようになる、プロトタイプが数日で完成する、そんな未来が、すでに現実になっています。
では、AI時代になって、ITプロジェクトの成功率は上がっているでしょうか。
私はITコンサルタントとして多くの企業を支援してきましたが、正直に言うとAIの登場で、ITプロジェクトの失敗パターンは変わっていないどころか、むしろ新たなリスクが生まれていると感じています。
それは、間違った方向に速く走れるようになったからです。
以前であれば、システム開発は短くても3ヶ月程度、規模によっては半年から1年、大規模なものになると数年という時間がかかっていました。
これは、クライアントの課題と求めるゴールが明確であればあるほど、要求定義や要件定義に時間をかけて、常に正しいゴールに向かうように調整を行いながら開発を進めていたからです。
しかし、いまやシステム開発の実装部分だけでなく、要求定義や要件定義もAIが生成し、そのまま実装に進んでしまうケースが増えています。AIが生成した仕様書は一見整っているように見えますが、実際の業務で使うと仕様の漏れや現場との乖離が次々と表面化します。
なぜこの問題が起きるのか、その構造については「なぜITに詳しくない人ほど「AIでSIerは不要になった」と思ってしまうのか?」で詳しく解説していますが、結論を一言で言えば、AIは何も悪くなく、人間の指示が曖昧なのが悪いのです。
AIは、計算の速度を上げることができますが、決断はできません。
何を作るのか、なぜそれが必要なのか、解決することで何が得られるのか、これを決めるのは、経営者の仕事であり、実際にシステムが稼働して使うのも人間です。
そのため、AIが進化するほど、この判断の重みは増していきます。
本記事では、AI時代だからこそ経営者が何に向き合うべきなのか、について見ていきます。
そのシステムは「誰のため」に作るのか
弊社にご相談いただくケースの中で、よく聞かれるIT導入での失敗パターンがあります。
受注管理を効率化するためにシステムを導入した。費用は数百万円。開発期間は半年。完成したシステムは機能的には申し分なく、仕様書通りに動いていた。
しかし導入から3ヶ月後、現場の担当者はこっそりと以前のExcelに戻っていた。
このような事態が起きるのはどうしてでしょうか?
このケースの場合、新たなシステムでは多くのデータを取得しようとするあまり、入力項目が多くなりすぎていました。そのため、現場の担当者にとっては、「効率化のためのシステム」が「余計な手間を増やすシステム」になってしまっていました。
これに対して経営者は、「なぜ仕様書通りに作ったのに、使われないんだ」となるのですが、これは開発会社だけの問題でしょうか。
私はそうは思いません。
これは、「何を作るか」を決める段階での問題です。
受注管理を効率化したい、という課題の設定は正しいのですが、「誰が・どの場面で・何に困っているか」を丁寧にかつ具体的に言語化する作業が足りていませんでした。
そこで現場担当者の実態を把握し、出てきた「何を・どうすれば・効率化できるのか」を要件に落とし込む必要があったのですが、それせずに、経営者の「こうあるべき」という理想をそのままシステムに落とし込んでしまった。
これが失敗の本質です。
業種や規模は異なっても、このパターンは繰り返されます。そして多くの場合、問題は「システムの性能」にあるのではなく、「システムを作る前の段階」にあります。
「要件定義」と「要求定義」:経営者が知るべき決定的な違い
ITの世界には、似たような言葉がたくさんあります。「要件定義」と「要求定義」もそのひとつです。
ざっくり言うと、こういう違いがあります。
- 要求定義(What you want / Why):「何を解決したいか」「なぜそれが必要か」「解決した先にどんな状態を目指すか」を言語化するプロセス。ビジネスの目的・課題・ゴールを整理する段階です。
- 要件定義(What the system does):要求定義で決まったゴールを達成するために、「システムがどんな機能を持つべきか」を整理するプロセス。エンジニアが開発に必要な仕様を固める段階です。
この2つは本来、順番があります。要求定義が先にあって、その後に要件定義が来る。
しかし多くの企業では、この順番が曖昧なまま進んでいきます。あるいは、要求定義のプロセスをほぼ省いて、いきなり要件定義に入ってしまう。
その結果、何が起きるか。
「技術的には正しいが、業務では使えないシステム」が完成します。
「要求定義は専門家の仕事」という勘違い
上手くいっていないIT導入プロジェクトやDXのプロジェクトほど、最初に経営者やクライアントのプロジェクト担当者からよく聞く言葉があります。
- 「要件定義は難しいから、専門家に任せました」
- 「ITのことはよくわからないので、SIerにお願いしました」
この考え方が、プロジェクトが失敗する落とし穴になります。
確かに、要件定義はITの専門家が主導すべきです。どんなシステムが技術的に実現可能か、どんな設計が保守しやすいか、これらはエンジニアの領域です。
しかし、要求定義は違います。
- 現状、どんな経営上の課題があって困っているのか
- なぜこのプロジェクトをはじめ、それによって何を得ようとしているのか
- この課題を解決することで、事業にどんな変化をもたらしたいか
- この課題を解決する事で3年後にどんな会社になっていたいか
- そのためにITで何を実現したいのか
これは経営者しか語れません。
あなたの会社のビジネスモデル、競合との差別化ポイント、現場の実態、顧客との関係性、これらを最も深く理解しているのは、経営者自身です。
ITコンサルタントは、ITを使って経営の課題を解決するプロではありますが、経営課題については、経営者がITコンサルタントと一緒になって明確にしていく必要があります。
ところが、「ITは難しい」という先入観から、多くの経営者がこの最も重要なプロセスを外部に丸投げしまうことがあります。
要求定義を誰かに任せることは、「何を作るか」を他人に決めてもらうことと同じです。
AIが進化するほど「責任」は経営者に戻ってくる
ここで、冒頭の話に戻ります。
AIはシステム開発を劇的に加速させている、これは事実です。しかし、AIがどれだけ高性能になっても、できないことがあります。
それは、判断の責任を取ることです。
AIは計算できます。選択肢を列挙できます。リスクを分析できます。しかし「この不確実な状況で、これでいく」と決断し、その責任を引き受けることはできません。
痛みのない決断は、決断ではなく計算です。
AIが提示できるのは「Aパターンの場合とBパターンの場合の違い」です。しかし「あなたの会社にとってどちらが正しいか」はAIには決められません。あなた自身が、時に痛みを伴いながら、選ばなければなりません。
そしてAIによって開発速度が上がるほど、この判断の重みは増します。
「3ヶ月で失敗システムが完成する」時代に、最初の方向を間違えることのコストは、以前の比ではありません。
逆に言えば、最初の判断が正しければ、AI時代のIT投資は以前の何倍もの成果を出す可能性があります。
要求定義の精度が、AI時代のIT投資の成否を決める。
私はそう確信しています。
経営者が要求定義で向き合うべき3つの問い
では、経営者は要求定義においてどんなことを考えればいいのでしょうか。
私がコンサルティングの最初のヒアリングで必ずお聞きする問いを、3つ紹介します。
問い1:「この課題は、なぜ今解決する必要があるのか」
- なんとなく非効率だから。
- 他社が導入しているから。
- 営業担当者に勧められたから。
これらは、IT投資の理由として十分ではありません。
本当に問うべきは、なぜ今なのかです。
今この課題を放置すると、3年後・5年後に何が起きますか?競合他社との差が開きますか?人件費が事業継続を圧迫しますか?顧客満足度が下がり続けますか?
逆に言えば、今解決することで何が変わりますか?どんな可能性が開きますか?
この「なぜ今」を言語化できると、IT投資の優先度と緊急度が自然と明確になります。
問い2:「解決したとき、何がどう変わっているべきか」
- 業務を効率化したい。
- DXを推進したい。
これらは、目的の言語化として不十分です。
私がクライアントに求めるのは、もっと具体的な状態の定義です。
- 紙やFAXからオンラインでの受注に切り替えて、受注状況をリアルタイムで把握したい。
- 受注処理にかかる時間を、今の月40時間から月10時間に減らしたい。
- 毎月3件発生している受注ミスをゼロにしたい。
- 営業担当者が外出先からリアルタイムで在庫を確認できるようにしたい。
この粒度まで落とし込んで初めて、「このシステムで達成できたかどうか」が判断できます。
曖昧なゴールは、曖昧な成果しか生みません。そして曖昧な成果は、IT投資の失敗として認識されます。
ゴールの解像度を上げることが、要求定義の最も重要なステップです。
問い3:「何を『やらない』と決めるか」
これが最も難しく、最も重要な問いです。
IT導入のプロジェクトを始めると、関係者から次々と「あれもできるといい」「これも対応してほしい」という要望が出てきて、気づけば当初の目的とは関係のない機能が山積みになっています。
このよくある状態の背景には、3つのパターンがあると私は感じています。
- 責任回避:「要望を断ると責任を問われるかもしれない」「どちらか判断できないから入れておこう」
- 思考停止:「とりあえず全部入れておけば問題ない」「現状を変えない方が文句が出ない」「要望は全て聞いておこう」
- 合意回避:「優先順位をつけると誰かが不満を言う」「要件が膨らむのでだまっておこう」
この3つは、いずれも経営者が「選ぶ決断」から逃げて、開発会社もそれをそのまま受け入れてしまっている状態です。
「何をやらないか」を決めることは、「何をやるか」を決めることと同じくらい重要です。
リソースは有限です。時間も、予算も、人も。全部を追いかけると、どれも中途半端になります。
「今回はこれだけに集中する。他はやらない」と宣言できる経営者のプロジェクトは、成功する確率が高い。私はそう確信しています。
合意形成は「承認を得ること」ではない
要求定義をしっかり行い、ゴールを明確にした。では、それで終わりでしょうか。
要求定義の本当の難しさは、ここからです。
合意形成には、3つのレベルがあります。
- 表面的合意:承認を得ただけ。
- 理解の合意:内容を理解している。
- コミットメントの合意:変化を受け入れている。
IT導入プロジェクトで現場の反発が起きるとき、多くの場合は表面的合意しか取れていません。
「システム導入について説明しました。みんな聞いていました。反対意見は出ませんでした」
しかし、説明を聞いたことと、変化を受け入れることは、全く別のことです。
人は変化に対して本能的な抵抗を持っています。長年やってきたやり方を変えることには、どんなに合理的な理由があっても、心理的な負荷がかかります。
- 「今まで通りのやり方の方が早い」
- 「このシステム、本当に使えるの?」
- 「自分たちの仕事が奪われるんじゃないか」
これらの声は、反対意見ではありません。変化に対する自然な反応です。
ここで重要なのは、現場を説得することではなく、現場が変化を受け入れられる状態を作ることです。そのために経営者が担うべきことを、3点挙げます。
1. 変化の「なぜ」を何度も伝える
システムの機能を説明するより、「なぜこの変化が必要か」を繰り返し伝えることの方が重要です。
現場の担当者が「このシステムは自分たちのためになる」と感じられるか、そのメッセージを経営者自身が発し続けることが必要です。
2. 現場の声を要求定義に組み込む
実際にシステムを使う人が、設計の段階から関わることが理想です。
「自分たちの意見が反映されたシステム」であれば、現場の当事者意識は大きく変わります。経営層だけで決めたシステムを現場に押しつけると、反発が起きやすくなります。
3. 「使えなければ言っていい」という環境を作る
IT導入後、現場から「使いにくい」という声が上がることは珍しくありません。
しかし、「上が決めたんだから」という空気の中では、この声は表に出てきません。フィードバックを歓迎する姿勢を、経営者が明示的に示すことが重要です。
経営者が問うべき、たった一つの質問
AI時代においても、IT活用を成功させるために経営者がまず自問すべきことがあります。
「このIT導入プロジェクトが終わった後に、何が変わっているべきか」
この問いに、具体的な言葉で答えられるかどうかが、IT投資の成否を分けます。
数値でも、業務フローの変化でも、顧客体験の改善でも構いません。「このシステムが導入された結果、何がどう変わるべきか」を明確に言語化できているかどうか。
これが、要求定義の出発点です。
もしこの問いに答えられないと感じたなら、それはシステムを選ぶ前に立ち止まるべきサインです。
AIがどれだけ強力になっても、この問いへの答えは人間が用意しなければなりません。AIは「計算」はできますが、「何のために」という目的を決めることはできないからです。
とはいえ、世の中の流れから至急、システム導入やDXを進めなければいけない、という状況は経営者にとって良くあるお話です。
そのため、弊社では、ふんわりした要件しか決まっていない「霧の状態」でのコンサルティングも数多く手がけており、その先の要求定義から要件定義・設計・構築・運用・解析までワンストップでの提供も可能です。
まとめ
AI時代のIT投資で失敗しないために、経営者に意識していただきたいことを整理します。
- 要求定義は経営者の仕事:「何を解決したいか」「解決した先に何を目指すか」は、経営者しか語れない
- ゴールの解像度を上げる:「効率化したい」ではなく「工数を月○時間削減する」まで具体化する
- 「やらないこと」を決める勇気:全部を追いかけると、どれも中途半端になる
- 合意形成はコミットメントまで:承認を得ることと、変化を受け入れてもらうことは別のこと
- AIが速くなるほど、最初の方向が全てを決める:速さはリスクも増幅させる
「何を作るか」が決まったら、次は「どう作るか」です。
後編では、要件定義の本質と、IT導入を誰に依頼すべきか、SIer・ITコンサル・システム会社の違いと選び方、について詳しく解説します。
後編:「要件定義は合意形成」AI時代に、誰に何を依頼すべきか (近日公開)
弊社では、要求定義から始まる伴走型のITコンサルティングサービスを提供しています。「まず課題を整理したい」「IT導入を考え始めたばかり」という段階からでも、お気軽にご相談ください。
御社のゴールへの到達を、誠実にバックアップします。
よくあるご質問
要求定義が先です。
「何を解決したいか・なぜ必要か・解決した姿はどんな状態か」を言語化するのが要求定義です。その後に、それを実現するためにシステムが何をすべきかを整理するのが要件定義です。多くの失敗は要求定義を飛ばして要件定義から始めることで起きます。
できます。むしろIT担当者がいない企業こそ、要求定義が重要です。
IT担当者がいる企業は「技術的に何ができるか」から入りがちですが、IT担当者がいない企業は「業務上何が必要か」という本質から考えられるため、要求定義に集中しやすい面もあります。弊社では、要求定義のプロセスを一緒に進める支援を提供しています。
AIは要求定義の「作業」を支援できますが、「判断」はできません。課題を整理したり、質問を提示したり、ドキュメントを生成したりする作業はAIが補助できます。
しかし「これを解決することに投資する価値があるか」「何を優先するか」という判断は、経営者が行う必要があります。AIを活用しながら、最終的な選択は経営者が担う、というスタンスが現実的です。
プロジェクトの規模によりますが、弊社の経験では1〜2ヶ月程度かけることが多いです。
急いで進めると曖昧なまま進んでしまうリスクがあります。要求定義に時間をかけることは、後の手戻りコストを大幅に削減することにつながります。
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